2023年12月6日 5時00分
安倍派の裏金疑惑
話せば分かる――。5・15事件の際の犬養毅(いぬかい つよし)首相の言葉が有名なのは、政治家のあるべき姿をこれほど如実(にょじつ)に示す一言はないからだろう。説明に言葉を尽くし、説得し、物事を動かす。たとえ暴力で我を通すテロに直面すれども、それこそが政(まつりごと)を担う(になう)人の業(ぎょう)ではないか▼ずっと、そう思っていたが、はて、筆者の思い違いだったか。自民党安倍派の裏金疑惑で、腕を組む。当然ながら幾多の疑問が生じる話だが、奇妙なことに岸田首相ら誰一人として、まともな説明の弁を発しない(はっしない)▼聞こえてくるといえば「適切に対応する」といった意味不明の言葉ばかり。まるで空虚(くうきょ)で中身がない。これを「空話(からばなし)」と言わずして何と言おう▼官房長官らからは都合が悪いときのお決まりである「控える」「控える」の合唱(がっしょう)も聞こえてくる。ケケケ、クワクワ。新手(あらて)の「蛙(かえる)」化現象ではあるまいし、政治家が言葉を捨てれば、もはや人心はつかめまい▼そもそも、国会議員ともあろう方々が組織的に裏金作りとは、情けない。お金に困っているわけではないだろうに。高給を食み(はみ)、政党交付金も得ている。領収書なしで月100万円を使える旧文通費(きゅうぶんつうひ)とやらもある。もっと必要だというならば、堂々と使途(しと)を明示し(めいじし)、国民に請えば(こえば)いい▼筆者の頭には、論語の一節が浮かんで消えない。いわく、不義にして富み且つ(かつ)貴き(とおとき)は、我において浮雲(ふうん)のごとし。ああ、そんな気概のある政治家はいないのか。自民党には、言(こと)を尽くし、不義(ふぎ)を正す(ただす)議員はいないのか。
五・一五事件(ごいちごじけん)は、1932年(昭和7年)5月15日に日本で起きた反乱事件。武装した陸海軍の青年将校たちが内閣総理大臣官邸に乱入し、第29代大臣の犬養毅を殺害した。