2023年12月13日 5時00分

自分を取り戻す

 「有罪にするためには、それなりの証拠が必要です」。不起訴の理由を電話で尋ねた昨年、担当した検察官はそう告げたという。上司による性被害を訴えた元自衛官の五ノ井里奈(いつのい りな)さんが著書『声をあげて』で書いている。証言する者が自衛隊に一人もおらず、嫌疑(けんぎ)不十分だった▼検察官は「不満があれば検察審査会に申し立てを」とも伝えた。闘いたいが弁護士を雇う(やとう)お金はない。ネットで記入例を調べ、被害の詳細をひとりでつづった。ユーチューブの番組に出演し、顔と名前を出して告発にも踏み切った▼五ノ井さんへの強制わいせつ罪に問われた元自衛官3人に昨日、有罪判決が言い渡された。検察審査会に申し立てて「不起訴不当」と議決され、起訴へとつながった結果だ。自身が受けた性暴力を何度も説明せねばならず、どれほどつらかったことだろう▼3人とも五ノ井さんに一度は謝罪したが、裁判では無罪を主張した。特に怒りを覚えるのは、「腰を振ったのは笑いを取るため」という言い分だ。周囲が笑えばわいせつ行為にはならない、だから自分は無罪だと本気で考えたのか▼福島地裁の判決は明快だ。少し長いが引用したい。「被害者の人格を無視し、宴会を盛り上げる単なる物として扱うに等しい(ひとしい)もので、被害者の性的羞恥心(しゅうちしん)を著しく(いちじるしく)害する卑劣で悪質な態様(たいよう)である」▼五ノ井さんは著書で、被害者としてではなく「ありのままの自分」で生きたいと書いた。前を向き、本来の自分を取り戻す。当然の権利である。

【速報】元自衛官・五ノ井里奈さんへの強制わいせつ事件 同僚の元隊員3人に有罪判決

2023年12月12日 13:32 福島テレビ

12日午後1時半、元自衛官の五ノ井里奈さんに対する強制わいせつ事件の判決公判が開かれ、同僚の元隊員3人に懲役2年、執行猶予(しっこうゆうよ)4年の有罪判決が言い渡された。

判決が言い渡されたのは、陸上自衛隊郡山駐屯地(こおりやまちゅうとんち)に所属し五ノ井さんの同僚だった元隊員3人。

判決によると、3人は2021年8月に五ノ井里奈さんを仰向けに倒したあとに腰を振り下半身を押し付けるなどわいせつな行為をした。

これまでの裁判で3人は「下半身は接触していない、性的意図は無かった」などと無罪を主張していた。