2023年12月14日 5時00分

史上最も熱い年に

 黒澤明(くろさわ あきら)監督の『羅生門(らしょうもん)』は、平安時代を舞台に人間のエゴを描いた名作だ。武士の死について証言した盗賊ら(とうぞくら)は自分に都合の良い解釈しか話さない。先日見直していて、ゲリラ豪雨並みの雨や酷暑(こくしょ)で焼けつく山に目がいった。そのころも異常気象はあったのか▼現代の状況はもっと深刻だ。世界気象機関によると、今年の世界の平均気温は史上最高になるという。ドバイで開催された国連気候変動会議(COP28)に合わせて発表し、「異常気象は日常的に命と生活を破壊している」と警鐘を鳴らした▼そのCOP28は合意文書をめぐり議論が紛糾(ふんきゅう)した。欧米や島嶼国(とうしょこく)が「化石燃料の段階的廃止」の文言を求め、サウジなどの産油国(さんゆこく)が反対したためだ。きのう、ようやく「化石燃料からの脱却」で合意した▼「私たちの島の死亡証明書には署名したくない」。文言なしの案を拒んだサモアの大臣の言葉に、これまで取材した南太平洋の島々を思い出した。トンガ、バヌアツ、ソロモン諸島。どこも海面上昇や海岸浸食が深刻だった▼キリバスには家々が浸水して、無人になった村があった。「温暖化が進めば、間違いなく私の国は水没する。どこにも逃げ場はありません」。別の村へ移住した住民は、子どもたちの将来を悲観していた▼先進国が排出する温室効果ガスで遠い島の人々が苦しむのは、どう考えても理不尽だ。特に排出量が多い石炭への依存がやめられない日本は、もっと真剣に削減に取り組むべきである。もう時間はない。