2023年10月7日 5時00分

命がけで届ける声

 道路の真ん中で、たった2人の女子生徒が抗議に立つ。「本と教師がほしい」と叫ぶと、幸福感に満たされていった――。『わたしのペンは鳥の翼』は、アフガニスタンの女性18人による短編集だ。そのひとつ「花」は、2年前に実際に起きたテロ事件を題材としている▼主人公は、周囲が決めた結婚で学校へ行けなくなった高校生だ。「あきらめるな」と励まし、共に抗議もした進歩的な親友は、学校を狙った爆弾テロで死んでしまう。その夜、彼女は「学校に戻る」と宣言する。母親は当惑するが、父親は「娘よ、学校へ行って、自分の思うように生きろ」と告げる▼英国の団体が企画、出版した同著には、普通の本なら末尾にある「作者紹介」がない。身元がわかると危険なためで、匿名で書いた人もいる▼今年のノーベル平和賞が、イランのナルゲス・モハンマディさんに決まった。女性の人権活動家として声をあげ続け、いまもテヘランの刑務所に収監されている。「私たちは決して引き下がらない」との訴えが、胸に刺さる▼ノルウェー・ノーベル委員会の委員長は、発表の冒頭で「女性、命、自由」と述べた。「人口の半分にあたる女性」を尊重できないことは、世界的な問題なのだとも。イランでは昨年から、女性の人権拡大などを訴える抗議デモが拡大した▼家父長制や社会の抑圧で苦悩する女性たちは、世界各地にいる。物語をつむぐこと、声をあげることが、命がけの国もあるのだ。私たちは、忘れてはいけない。