2023年10月1日 5時00分
コーヒーと人生
イタリアにいる40年来の友人から、近況(きんきょう)を伝えるメールが来た。コロナ禍の最中に両親を相次いで看取(みと)り、夏に子どもが結婚して夫婦2人になった。仕事に追われてしばらくは寂しいと感じなかったが、コンロに新品の小さなマキネッタを置いたときに涙が出たそうだ▼マキネッタは、イタリアの家庭にはほぼ必ずある直火型(じかびがた)のコーヒーメーカーだ。三つのパートに分かれていて一番下に水を入れ、その上のフィルターにひいた豆を詰めて火にかける。沸騰するとゴボゴボと音がして上部にコーヒーがたまる仕組みだ▼多様なデザインがあるなかで、一番有名なのは「ひげおじさん」のロゴ付きの製品だ。八角形(はちかくけい)のアルミ製で大小のサイズがある。長く愛用した6杯用(ろくはいよう)から3杯用(さんはいよう)に買い替えた友人に、家族が小さくなった寂しさを思う▼「発明」されたのは90年前だ。世界恐慌(きょうこう)は、ファシスト政権のイタリアも直撃した。洗濯用の蒸気ボイラーに着想を得たビアレッティという男性が、「家庭で安価に喫茶店のような味を」と売り出した▼戦後は息子が後を継ぎ、CM効果もあって一気に普及した。国内外で2億個以上が売れて、ニューヨーク近代美術館の永久収蔵品にも選ばれた。7年前に亡くなった息子の遺灰は大きなマキネッタに納められた▼きょうは国際コーヒーの日(しゅうぞうひん)。コロナでコーヒーも家飲みが増え、素朴な(そぼくな)機能で出るごみが少ないマキネッタはエコだと再注目されている。我が家にある10年物で久しぶりにいれてみようか。
- 髭のおじさんでお馴染みビアレッティ社のモカエキスプレスです。