2023年10月4日 5時00分
その後のトットちゃん
校長先生は言った。「さあ、なんでも先生に話してごらん。話したいこと、ぜんぶ」。女の子は話した。いま乗ってきた電車が速かったこと。前の小学校にツバメの巣があること。いつまでも鼻をズルズルやっていると、ママにしかられるから、なるべく早くかむこと▼黒柳徹子(くろやなぎ てつこ)さんの『窓ぎわのトットちゃん』は、読む人をやさしい気持ちにさせる名作だ。なかでもトモエ学園の小林宗作(こばやし そうさく)校長が、前の小学校を退学になったばかりのトットちゃんの話を、熱心に4時間にわたって聞き続ける場面が何ともいい▼「君は、ほんとうは、いい子なんだよ」。校長先生はトラブルを起こす彼女にくり返した。もしもその励ましがなかったら、「私はどんなことになっていたか」。黒柳さんは感謝を込め、振り返っている▼空前のベストセラーから42年という長い年月を経て、『続 窓ぎわのトットちゃん』が出版された。トモエ学園が空襲で焼け、青森に疎開していくトットちゃんと家族の「その後」である。思い出したくない戦争の記憶だが、ウクライナ侵攻を機に執筆したという▼一気に読んで、またしても涙してしまった。トットちゃんは相変わらず、ちょっと困った子だ。でも、多くのやさしさが彼女を包み込む。ヘンじゃないよ。そのままで「だいじょうぶ」と。暗い時代の話なのに、どこか温かな気持ちになる。なぜだろう▼「まあ、読んでいただければと思います」。黒柳さんはきのうの記者会見で、そう言った。あの笑顔で。