2023年10月24日 5時00分

ザックバランにズケズケと

 首相が自分の思ったことをザックバランにズケズケ言うのは大変よろしい――。66年前の小欄は歯切れ(はぎれ)よく、そう書きはじめている。ときの首相はと言えば、在職65日の短さで辞任しながら、没後50年のことし、とみに(【にわかに】suddenly ; 【顕著に】remarkably.)注目を集める石橋湛山(いしばし たんざん)である▼「四方八方にご機嫌とりばかりをしていては国のためにならない」。首相に就任し、国民向けの第一声に立った石橋は語った。「私は皆さんに嫌がられることをするかもしれないから、そのつもりでいてもらいたい」▼確かにズケズケとした言葉である。乱暴な言いぶりともいえる。でも、自らの志を訴える政治家の覚悟は、ヒシと伝わってくる。その言(そのげん)、まずは心意気よし。当時の人がうなずいたのも、よく分かる▼さて、こちらはどうか。きのう岸田首相が所信表明の演説をした。支持率が最低となるなか、税の還元だ、賃上げだといった話を聞きながら、「ご機嫌とり」との単語が幾度(いくた)も頭をよぎった▼思えばこの2年、「異次元の少子化対策」などと大見得(おおみえ)を切ったスローガンを散々聞かされてきた。それでいて、具体化は一向に見えない。衆参ダブル補選の投票率の低さが示すように、この国の国民は、いまの政治に鼻白む(はなじろむ)思いを強めていないか▼空々漠々(くうくうばくばく)とした文字の羅列はもう結構だ。首相は何をしたいのか。政治家としての本気がザックバランに伝わる言葉が欲しい。「最もつまらないタイプは、自分の考えを持たない政治家だ」。石橋は晩年、そんな名言も残している。

ざっく‐ばらん 〘形動〙 心中をさらけ出して隠し事をしないさま。遠慮がないさま。つくろわないさま。あけすけ。ざっくばらり。ざっくばれん。

ずけ‐ずけ 〘副〙 (「と」を伴って用いることもある。古くは「づけづけ」とも表記) ① 遠慮なく露骨に、または無愛想に、強くものを言うさまを表わす語。つけつけ。つかつか。