2023年10月26日 5時00分

町田ゼルビアのJ1昇格

 東京とは何だろう。地元とは何か。そんなことを考えさせてくれるエピソードを、『ちびまる子ちゃん』の作者、さくらももこさんが、自らの10代を描いた漫画『ひとりずもう』に記している▼「東京は楽しいよ」。静岡県の清水市に住む高校生、ももちゃんは同級生にそう言われる。「私も行ってみたいなあ」。一人で行くのは怖いから、親戚に頼み、東京見物に連れて行ってもらうことにした▼ところが、案内されたのは東京都の町田市(まちだし)だった。えっ、なんで。そこには東京タワーも、有名人も、原宿(はらじゅく)の竹の子族も、ももちゃんが見たかった東京は何もなかった。「町田ってホントに東京なのかな」。彼女はがっかりしてしまう▼町田に住む方々は、不快に思われただろうか。それとも、いまなら逆に胸を張り、言うだろうか。「確かに町田に六本木ヒルズはないけれど、我が街にはサッカーの町田ゼルビアがある」と。悲願のJ1昇格、おめでとうございます▼市民クラブとして長い間、地元の多くの人が愛し、育ててきたチームである。「誇れる(ほこれる)故郷にしたかった」「地域に根ざして街の思いを背負っている、その思いはこれからも」。本紙東京版に載った喜びの声を読み、こちらもうれしくなった▼ももちゃんは町田に行った翌日、原宿にも連れて行ってもらう。でも、なぜかつまらない。静岡に帰って、一人つぶやく。「東京って何がそんなに面白いんだろう」。東京は、いや、町田は、地元のよさを教えてくれる街である。