2023年10月30日 5時00分
モナさんの夢
11歳のモナさんは、絵を描くのが好きな女の子だ。家があるヨルダン川西岸地区(よるだんがわせいがんちく)の住民は、イスラエル当局から自由な移動を禁じられ、モナさんも通学のたびに検問所の長い行列に並ばされる。「わたしたちはヤギで、突っ立ってることなんか平気だって思ってるんだわ」▼有名な画家になったら簡単に通れるかも。それが夢だ。同じ学校に通う11歳のマハムードさんは、同世代のイスラエル人を知らない。でも「その子たちは、ぼくのこと憎んでいるし、ぼくもその子たちが憎い(にくい)」▼約20年前に、かの地で子どもたちの声を拾ったデボラ・エリス著『三つの願い』から引いた。幾世代(いくせだい)にもわたって続く紛争が、柔らかな(やわらかな)心をいかに傷つけ、ゆがめてきたか。それをまだ繰り返すのか。ガザへの攻撃が激しさを増す(ます)。8千人を超える死者のうち、半数が子どもだという▼きのうの紙面に12歳の声があった。「母も兄弟も、恐怖でずっと叫び続けている」。空爆におびえるムハンマド少年の目に映ったものを思うと、心が痛む(いたむ)▼戦いは始まったばかりだと、イスラエルは言う。犠牲が増えるほど現地の怒りは燃え続け、終わりは見えなくなる。地域の安定に必要なのは度(たび)を超した(こした)軍事行動ではなく、パレスチナ人の人権を認めることだろう▼冒頭のモナさんは、検問所のない世界があると知って想像する。誰にもとがめられず好きな所へ行く自分を。「ただ、どんどん、どんどん、どこまでも、どこまでも、行って、行って、行き続けるの」