1億人のギャンブラー?  

日本でカジノをめぐる議論が盛んになってきた10年ほど前のこと。オーストラリア屈指の大富豪(だいふごう)が地元紙で語った言葉に驚いた。「日本はぜひ、カジノを解禁してほしい。1億人の日本人は全員がギャンブル狂いなのに、競馬とパチンコしかできないのだから」▼なんて失礼な人かと、当時は不快だった。だが先日、政府が認定した大阪府・市のカジノを含む統合型リゾート(IR)整備計画(せいびけいかく)を見て、あれっと思った。年間来訪者(らいほうしゃ)は約2千万人で、うち外国人観光客は約3割と想定している▼岸田首相が述べた「世界に発信する観光拠点」にしては、7割が国内客とは意外だ。「1億総ギャンブラー」とまではいかなくても、ずいぶん多くないか。今度は不快ではなく、不安になってきた▼国内客に定めた「7日間で3回、28日間で10回まで」の入場制限や、ATMの設置禁止。ギャンブル依存症を防ぐための規制だという説明はむなしく、不安は増す。「夢洲(ゆめしま)」という人工島(じんこうとう)の名も、金銭感覚を惑わす(まどわす)響きのような▼計画では、政府が認定したタイミングも気になる。大阪府知事・市長の「ダブル選」で、IRを推進する大阪維新の会が圧勝した5日後だ。政治的な思惑が働いたのではないか▼冒頭の発言をしたジェームズ・パッカー氏(55)は当時、カジノ運営企業の会長で、米歌手マライア・キャリー氏との婚約と破局でも話題になった。辞任後も、企業の資金洗浄疑惑(せんじょうぎわく)などで調査されている。カジノの光には、影も付き纏う(つきまとう)のか。


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