2024年1月30日 5時00分

ブロッコリーが指定野菜に

 万葉集(まんようしゅう)に詠まれている野菜にはウリやニラなど、いまの感覚では、やや通好み(つうごのみ)の品が多い。〈瓜食(は)めば子ども思ほゆ 栗食めばまして偲(しぬ)はゆ……〉山上憶良((やまのうえの おくら)。それもそのはず。現在の日本で栽培されている野菜の多くは、外国からその後に持ち込まれたものだからだ▼たとえばニンジンやキャベツ。伝来したのは江戸時代だった。そもそも生野菜を食べる習慣は日本ではかなり新しく、トマトは明治になって観賞用から食用になった。食卓を飾る野菜にも、移り変わりがあるということだろう▼さて、新たな人気者(にんきしゃ)の殿堂入り(でんどういり)である。ブロッコリーが2026年度から「指定野菜」に加わるそうだ。価格が落ちれば、国が生産者を支える。他の野菜を横目に、この30年余で出荷量が倍増しているというから驚く▼『変わる家族 変わる食卓』の著者、岩村暢子(いわむら のぶこ)さんは子育て家族の食卓調査を続けてきた。00年ごろには既に「洗ったり切ったりが楽」とブロッコリーの出番が増えていたそうだ。そんな生活スタイルがすっかり定着したのだろう▼小さな森のようなもこもこした房は、さっとゆでると鮮やかな緑に変わる。弁当箱の隅っこで彩りを添える万年脇役のイメージが強いが、本来はいまごろが旬の冬野菜である▼立春まであとわずか。まさか万葉人たちのように若菜を摘みに野へ繰り出せるわけもないが、せめて野菜の香りや味に季節の移ろいを感じたい。〈茹(ゆ)で立てのブロッコリーの柔らかさ春が確かに近づく予感〉甲斐みどり(かい みのり)。