2024年1月11日 5時00分
八代亜紀さん逝く
雪の吹きすさぶ( violently [(吹き荒れた)海沿い(うみぞい)の小さな町。高倉健の演じる男が、ふらりと居酒屋(いざかや)に入る。奥には倍賞千恵子演じるおかみ。他に客はいない。「正月も、くにには帰らないのかい?」。ぽつぽつした会話から、孤独を抱えた者同士(ものどうし)だと互いに悟る。その時、店のテレビから歌が流れてくる▼〈お酒はぬるめの燗(かん)がいい/肴(さかな)はあぶった……〉。哀切に満ちた声で八代亜紀さんが「舟唄(ふなうた)」をうたわなければ、映画「駅 STATION」は成り立たなかっただろう。劇中で3度も流れる。脚本家が歌の世界に惚れ抜いた(ほれぬいた)▼映画の2人だけでなく現実でも、孤独に苛まれる(さいなまれる)時はある。見えや体面を放り出したい時もある。「舟唄」は、そんな背中をそばで静かに見守ってくれる歌だった。口ずさみながら、夜を過ごした人も多かろう▼当初は、美空ひばり((みそら ひばり)をイメージしてつくられたものだったという。だがめぐりめぐって、デビュー9年目の八代さんの手元に届く。あの情念の宿ったハスキーな声を通じて、あるべき一人酒のたしなみ方を教わった身としては、運命の気まぐれに感謝せねばなるまい▼かねて「歌は誰かの心を表現する代弁者だ」と語っていた。だからこそ「なみだ恋」や「雨の慕情(ぼじょう)」などの名曲に、多くの人が自分を重ね合わせたに違いない。八代さんが亡くなった。享年(きょうねん)73▼都会の盛り場で、どこかの港町で。弔いの杯が傾けられていることだろう。よけいな飾りはいらない。〈涙がポロリとこぼれたら/歌いだすのさ 舟唄を〉
八代 亜紀(やしろ あき、1950年〈昭和25年〉8月29日 - 2023年〈令和5年〉12月30日)は、日本の演歌歌手、女優、タレント、画家(がか)。熊本県八代郡金剛村(こんごんそん)(現:八代市)出身。本名は橋本 明代(はしもと あきよ)。 「雨の慕情」「舟唄」などで知られ、「演歌の女王」と呼ばれた歌手の八代亜紀(やしろ・あき)さんが昨年12月30日、急速進行性間質性肺炎で死去した。73歳だった。所属事務所が9日、発表した。葬儀は既に営んだ。後日、お別れの会を開く予定という。 【ファンの皆様ならびに関係者の皆様へ】
平素よりご厚情をいただき心より感謝申し上げます
2023年9月に膠原病(こうげんびょう)の一種であり指定難病である抗MDA5 抗体陽性皮膚筋炎と急速進行性間質性肺炎を発症し療養を続けておりました弊社所属の八代亜紀が12月30日に永眠いたしましたことを謹んでご報告申し上げます
惚れ抜く(ほれぬく)ー これ以上ないというくらい、すっかりほれる。