2024年1月18日 5時00分
夢を語る公園
彼女には、夢があった。客室乗務員になるという夢だった。飛行機に乗って、世界を回り、多くの人とふれあいたい。お母さんを、海外旅行に連れて行きたい。一途(いちず)に、そんな思いを語る女性だった。名前は、福島啓子(ふくしま けいこ)さんという▼2005年1月18日、ちょうど19年前のきょうのことだ。彼女は、見知らぬ男に殺された。23歳だった。早朝、福岡空港近くの自宅を出て、英会話のCDを聴きながら、徒歩で通勤の途中だった▼明るい笑顔が、素敵な人だった。真面目で努力家で、高校では生徒会の副会長だった。客室乗務員の試験には通らなかったが、再び挑戦しようと準備をしていた。精いっぱい、生きている若者だった▼殺害現場の公園はいま、「夢を語る公園」という名が付いている。「啓子のように夢を持つ人たちが、語り合える場をつくれないか」。父親の敏広(としひろ)さん(67)の願いに、公園を管理する福岡市が応じた▼事件の後、そっとしておいてほしいと思ってきた敏広さんだが、最近は「娘が生きた証し」を伝えようと、活動を始めた。講演では、参加者に紙飛行機を折ってもらう。それを飛ばして、一人ひとりの夢を声に出してもらう。敏広さんも、最後に言う。「もう一度、我が子、啓子に会いたい」▼公園のベンチに座り、啓子さんを思った。空を見上げると、すぐ近くの福岡空港から、次々と飛行機が飛び立っていく。夢なんて、かなわないことばかりだけど、夢があるから、あすがある。彼女のことを、忘れない。
愛称が「夢を語る公園」となった大井北公園。福島啓子さんが亡くなった年に植えた桜の木の下には花束(はなたば)が供えられ(そなえられ)、手を合わせる人たちの姿もあった、福岡市博多区(撮影・穴井友梨) - 娘が命奪われた場所、みんなが「夢を語る公園」に 福岡空港近く、遺族の思い結実
法務省は2日、福岡県内で2004~05年に女性3人を殺害し、強盗殺人罪(ごうとうさつじんざい)などで死刑が確定した鈴木泰徳死刑囚(50)=福岡拘置所=と、神奈川県大和市(やまとし)で01年に女性2人を殺害した強盗殺人罪などで死刑が確定した庄子幸一死刑囚(64)=東京拘置所=の刑を執行した。執行は18年12月以来で、令和時代では初。
05年1月には福岡市の公園で会社員の福島啓子さん=同(23)=の背中などを刺して殺害し、バッグを奪った。