2024年1月19日 5時00分
総合的に判断する
若干(じゃっかん)、唐突な話かもしれないが、「総合的な判断」とは何だろう。以前からよく聞く言葉とはいえ、最近富に(とみに)多用されている気がしてならない。漠然(ばくぜん)としていて、何を意味するかは分かるようで分からない。不思議な言葉だ▼なかでも目立つのは、政治の世界である。自見英子(じみ はなこ)地方創生相(ちほうそうせいしょう)が昨年末、自民党の派閥を退会するとした理由が、そうだった。いったい派閥の問題をどう考えるのか。ワンワンといった犬の鳴き声などと違い、人の言葉ではあるのだが、何とも釈然としない▼岸田首相が長男を秘書官に起用したときの説明も、これである。日本学術会議の問題で、菅義偉(すがよし ひで)前首相が言った「総合的、俯瞰(ふかん)的」は流行語大賞の候補になった。旧ジャニーズ問題などで、企業もよく使ってきた▼正直に理由は説明したくない。だけど、何かを言わなくてはならない。つまりは、そんな立場の人にとって、極めて便利なごまかしの言葉なのだろう。もしも聞き手が意図を理解しなければ、「あんた、頭悪いね」と開き直る手もある▼かつて哲学者のカントは、人間の認識のあり方を問い、「総合的判断」とは何かとの課題を深遠に論じた。同じ言葉がいま、真意を隠す目的で広く使われていると知ったなら、泉下(せんか)でさぞ苦笑しているに違いない▼説明をしたがらない社会で、大手を振って闊歩(かっぽ)するのは、強い者たちの恣意(しい)的な思惑である。今年もまた、そんな言葉を散々と聞かされるのだろうか。総合的に判断して、嘆息(たんそく)しきりである。
- 自見英子(日語:自見 英子/じみ はなこ,1976年2月15日—)是日本的政治人物、醫生,自由民主黨所屬參議院議員(1期),厚生勞動大臣政務官。