2024年7月3日 5時00分

新紙幣の手触りは

 ブルース音楽って、いいな。そう思ったきっかけは、私の場合、レイ・チャールズだった。20世紀にソウル界の大スターとして知られた全盲(ぜんもう)の米国人歌手である。故郷への思いを切々と歌った代表作「我が心のジョージア」は日本でも有名だろう▼若いころは目が見えないことで、ずいぶんと苦労したそうだ。ひどい差別も受けた。伝記映画『Ray/レイ』には、演奏のギャラを受け取る際、危うく騙(だま)されそうになる場面がある。1ドル札なのに、5ドル札だとウソをつかれるのだ▼それ以来、「僕への支払いはすべて1ドル札にして」と求めたという。心なきバンド仲間がつけたあだ名は「ミスター・1ドル札」。支払う側からすれば両替(りょうがえ)が面倒であり、もめ事は絶えなかったらしい▼目が不自由な人たちにとって、紙幣の識別は悩ましい(なやましい)問題である。日本では、2000年に出た2千円札が、多くの視覚障害者を困惑させた。当時の5千円札と縦幅(たてはば)が同じで、横幅(よこはば)も1ミリしか違わなかった(ちがわなかった)からだ▼いまのお札には指で触れ、盛り上がりの形で識別するマークがある。ただ、摩耗(まもう)すれば、分かりにくい。ユーロ紙幣のように、すべての額で大きさと色の違いをもっと際立たせて(きわだたせて))ほしい、との声もあるようだ▼きょうから、新しいデザインのお札が20年ぶりに発行される。識別マークの手触り(てざわり)が、より分かりやすく改良されているというが、どうだろう。渋沢翁(しぶさわ おう)の顔もいいけれど、新紙幣(しんしへい)を手にしたら、まずはしっかり、触って(さわって)みたい。