2024年7月11日 5時00分
「準同盟」の危うさ
澄んだ海と白いサンゴ礁。24年前、南の島で当時のメルカド・フィリピン国防相(こくぼうしょう)は上機嫌だった。マニラ特派員だった筆者ら同行記者団に、「これは海洋科学を研究するための平和な視察だからね」。駐屯する国軍兵士(こくぐんへいし)との面会でも、「軍事目的だと記者に誤解されるから手短に(てみじかに)」と軽口を叩いた(たたいた)▼国防相が訪れたのは南シナ海にあるスプラトリー南沙諸島(なんさしょとう)のひとつ、パグアサ島(パグアサじま)だ。1970年代からフィリピンが実効支配し、中国が領有権を主張している。それまでも一時的な緊張の高まりはあったが、いま思えばまだ平穏だった▼その後、南シナ海(みなみしなかい)をめぐる両国の対立は激化した。中国船からのレーザー照射や放水銃の発射、衝突も。いまでは比当局(ひとうきょく)が島を訪問すると、中国海警局の船が来て警告される▼緊張が続くなか、比政府は同盟国などとの関係強化に努めてきた。最優先は、米比相互防衛条約の見直しだ。両国共通の脅威として戦う「太平洋地域での武力攻撃」の範囲に、「南シナ海が含まれる」と明記するよう求めた▼長い交渉の末に昨年、バイデン政権との合意で「南シナ海」が記された。ただし、条約にではなく防衛ガイドラインとしてである。比関係者によると、米側が条約の改正を拒み、修正しやすい指針になったという▼かたや日比の関係強化は、驚きの速さで進む。安全保障面で結束を深める円滑化協定に署名したことで「準同盟」級になる。前のめりな双方に、どちらの国も知る身として不安が募る。