2024年7月17日 5時00分
うつ病になった相原コージさん
朝から机に向かっても、ちっとも筆(ひつ)が進まない。何を書けばいいのか。ココロが空っぽだと感じることがある。似た心境だろうか。いや、異才のギャグ漫画家が味わったのは、レベルの違う苦しみだろう▼『うつ病になってマンガが描けなく(かけなく)なりました』。代表作の『コージ苑』などで知られる相原コージ(あいはら コージ)さん(61)が、近著のコミックで体験を明かしている。コロナ禍をきっかけに発症し、全くアイデアが浮かばなくなった。「描けない私には何の価値もない」。思い込みが高まり、自殺を試みる▼閉鎖病棟への2カ月の入院を経て、徐々(じょじょう)に回復へ、と進んだ巻(かん)の最後で、読み手は呆然(ぼうぜん)となる。退院から3年が過ぎた今年、うつ病が再発して「私は再びマンガが描けなくなってしまった」。ペンも持たずに机に向かう、後ろ姿のコマで不意に終わる▼都内の喫茶店でお会いした。あのラストはどんな思いから? 「ぼんやり希望を感じられるようにしたかったんですが、限界でした。でも『かえってリアルだ』という声もあって、うれしいです」▼いま心が弱っている人には、エピソードが強すぎるかもしれない。無理して読まなくていい、と言う。買っていただいて積ん読(つんどく)に――そんな冗談もこぼれた。ただ体調にはまだ波があって、いまは月1回通院しているそうだ▼波は寄せては返す。治ったと思ってもぶり返すのが、うつ病の苦しさだろう。だが、希望はあると信じたい。潮は気づかぬうちに満ちていく。ゆっくり、ゆっくりと。
ぶりかえ・す ―かへす 03【ぶり返す】(動サ五[四]) ① 一度なおりかけた病気が,再び悪くなる。「かぜが―・す」 ② 一度よくなり始めたりおさまりかけていた物事が再び元の悪い状態に戻る。「インフレが―・す」「寒さが―・す」