2024年7月25日 5時00分
ホヤを食べる
人間20歳をすぎたら、自分の脳は自分で育てろ――。知の巨人、立花隆(たちばな たかし、本名:橘 隆志 1940年(昭和15年)5月28日 - 2021年(令和3年)4月30日))はよくそう語っていた。成人たる者、知的な刺激を脳に与え、常に鍛えるべしとの言葉に、うなずく人もいるだろう。では、その脳を、大人になると自ら食べてしまう生物(せいぶつ)もいると聞けばどうか▼ホヤである。あの橙(だいだい)色のグニャッとした海の生き物である。オタマジャクシ(お玉杓子)形の幼生は脳を使い、すみ家を探して水中を泳ぐ。ここという場所を見つけると、でんと動かずを決め、脳を食物にするという▼何とも不思議だ。ホヤの専門家、広島修道大学(ひろしましゅうどうだいがく)助教の長谷川尚弘(はせがわ なおひろ)さん(29)に尋ねてみた。なぜ、そんな生き方をするのでしょう。答えはシンプルだった。「ほとんど脳が必要ないからです。動かないので」▼脳は多くの栄養を必要とする。動かないなら、考えなくていい。脳はなくていい。それがホヤの生き残り戦略だという。「動けないのではなく、動かないことを選んだ生き物なのだと思います。研究者としては、そこが面白い」▼脳を発達させる戦略で“繁栄”してきた人類から見れば、逆転の発想である。それでいて、ホヤは無脊椎(せきつい)動物のなかでもっともヒトに近い生物だそうだ。使用60年弱の我がポンコツ脳で、ぼんやりと考える。はてさて、生き物とは、いったい何なのだろうか……▼北海道産の大きなホヤを近所のスーパーで見つけ、一人さばいて酢の物で食す(おす)。〈海鞘(ほや)噛(か)んで牧に畑に(まきにはたけに)雨が降る〉飯田龍太(いいだ りゅうた)。旬を迎える食感に、海鞘は夏の季語と知る。
ポンコツ 読み方:ぽんこつ 古くなったりして壊れたり調子が悪かったりすること。
ホヤは貝だと思われがちですが、生物学的に貝でもなく、魚でもありません。実は、動物に近い脊索動物(せきさくどうぶつ)の一種として分類されています。ホヤ(海鞘)は海産動物の総称。その名の由来は「ランプシェード」に当たる火屋(ほや)に形が似ているからと言われ、凹凸(おうとつ)のあるその形状から「海のパイナップル」と呼ばれています。
ホヤの仲間は日本だけでも百数十種程もいると言われています。そのうち食用とされているのは「真ホヤ」と「赤ホヤ」など、ごく一部。三陸で生産(養殖)されている「真ホヤ」はホヤの王様と言われています。殻に凹凸があり、身が黄色く「肉厚な身(にくあつなみ)」と「甘み」が最大の特徴です。