2024年7月31日 5時00分
ヒマワリの季節に
夏になると毎年、近所の花屋でヒマワリの切り花を買う。子どものころに種(たね)をまいて育てたものは背が高く、大きな花が咲いた。サイズや色が多様になったいまは、小ぶりで鮮やかな色の品種(ひんしゅ)を選ぶ。花瓶(かびん)に挿して眺めると、丸顔が笑っているようで気分が明るくなる▼スティーヴン・A・ハリス著『ひまわりの文化誌』によると、ヒマワリは北米原産(ほくべいげんさん)で、約5千年前には種を得るために栽培されていたという。花というより食用作物(さくぶつ)だったのだ。薬や染料(せんりょう)などにも用いられた▼16世紀に欧州へ渡って世界に広まると、花は愛され、種からは油をしぼった。学名は「一年草の太陽の花」を意味し、太陽と関連づけられることが多い。それを象徴したのが、28年前にウクライナ南部で行われた式典だ▼1996年、旧ソ連時代の地下ミサイル格納庫跡(かくのうこあと)の上に米、ロシア、ウクライナの国防担当閣僚が共にヒマワリの苗(なえ)を植えた。「私たちはこの地にヒマワリを植え、太陽は再び輝き出した」。当時の米国防長官の言葉に、冷戦終結後の世界で核軍縮が進むかもしれないと思った▼旧ソ連時代のウクライナには、約1900発の戦略核弾頭が配備されていた。ウクライナ独立後に破棄することで合意し、この日の式典に先立って最後の40発が搬出(はんしゅつ)された。ヒマワリは核軍縮や平和の象徴になった▼ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、あのころ抱いた小さな期待も消えた。闇でなく光を、恐怖でなく希望を。太陽のような花が叫んで(さけんで)いる。