2024年3月9日 5時00分
アラレちゃんの「つんつん」
40年以上も前のこと。丸いメガネをかけた同級生はアラレちゃん、食いしん坊の子はガッちゃんと呼ばれていた。友達とは「んちゃ」「ばいちゃ」とあいさつし、叱られると「おこらりちゃった」と戯けた(おどけた)ものだ。鳥山明さんの漫画『Dr.スランプ』は、男女を問わず人気だった。きれいな絵、舌足らずのアラレ語、根性や努力とは無縁の緩い(ゆるい)展開▼この作品の魅力はいくつも挙げられる。だが、なんといっても画期的だったのは「うんち」だと思う。排泄(はいせつ)しないロボットのアラレちゃんはいつも興味深そうに、とぐろを巻いたのを「つんつん」していた▼エピソードのひとつでは、紫色で手足のあるうんちまで登場した。散歩の途中でピンクや緑の仲間と合流するが、行き先がなくて悲しむ。そこへ「キーン」と現れたアラレちゃんが、つんつんした後でトイレへ連れていく▼少年ジャンプで連載されたのは、1980年から84年。子どもは大好きでも、うんちはまだどこかタブーな存在だった。それをかわいく、面白く描けたのはセンスも技術も突出していたからだろう。累計発行部数3千万部を超えるメガヒットだった▼名古屋弁を愛し、売れっ子になってからも愛知県清須市(きよすし)に住み続けた鳥山さんが亡くなった。68歳と聞いて、アラレちゃんを生んだときはまだ20代前半だったのかと驚いた。残念でならない▼鳥山作品はもちろん、『ドラゴンボール』も面白い。でもやっぱり、ペンギン村のアラレちゃんたちが一番好き(いちばんずき)だった。
鳥山 明(とりやま あきら、1955年〈昭和30年〉4月5日 - 2024年〈令和6年〉3月1日)は、日本の漫画家・デザイナー。
2017年11月、租税回避(そぜいかいひ)に関する流出文書、パラダイス文書に鳥山の名が記載されており、投資組合(とうしくみあい)に出資していたことがわかった。ただし本人によれば資産運用は完全に税理士任せで、報道を見て知ったという。この組合は12人の投資で組成(そせい)されていたが赤字に陥り、本業の所得からの控除(こうじょ)が認められず修正申告を行ったことで知られていたが、パラダイス文書の解析の結果、そのひとりが鳥山であったことが判明した。この報道を受けて11月8日に自宅前で『FLASH』の突撃取材に遭い、顔出しをすることになった。
2024年3月1日に急性硬膜下血腫(きゅうせい こうまくかけっしゅ)のため死去。68歳没。訃報は3月8日に週刊少年ジャンプの公式ウェブサイトで公表され、葬儀は近親者だけで行われた。
「1978年に『週刊少年ジャンプ』の読切(よみきり)作品『ワンダー・アイランド』で漫画家としてデビューした鳥山さんは、1980年に連載を始めた『Dr.スランプ』がアニメ化されるなど、漫画家としてブレイク。
1984年に連載を始めた『DRAGON BALL』は、累計発行部数が2億6000万部を超える大ヒット作となり、アニメやゲームのほか、ハリウッドで実写版が公開されるなど、ワールドワイドな人気を獲得しました。RPGゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズのキャラクターデザインを担当したことでも有名です」(週刊誌記者)
そんな鳥山さんといえば、晩年は特に「大のマスコミ嫌い」でも知られていたが、2017年11月に、鳥山さんを自宅前で捉えた(とらえた)本誌の貴重なカットがある。なぜ鳥山さんが顔出しで取材に応じてくれたのか? 当時の状況を知る本誌記者が語る。
「世界の富裕層(ふゆうそう)が『タックスヘイブン(租税回避地)』を使い、税金逃れをはじめとする特権的な利益を享受している実態を明らかにした“パラダイス文書”によって、鳥山さんが『税金逃れをしているのでは?』との疑惑が浮上。
発端となったのは、2005年に発覚したアメリカ国内の不動産事業出資の申告漏れでした。当時、国税庁(こくぜいちょう)は出資した二十数人に対し、総額約30億円の申告漏れを指摘し、十数億円の追徴課税をした。しかし、出資者たちの氏名は明るみにされなかった。しかし、パラダイス文書によって、鳥山さんがこの投資に関わっていたことが裏づけられたのです」
この件で、本誌は鳥山さんを豪邸前で直撃。記者の「アメリカの不動産事業への投資は租税回避が目的だったのか?」という質問に、鳥山さんは「僕はそのことについては、まったくタッチしていなくて、全部まかせているんです。本来の仕事に集中するために、ほかの人にまかせています」と回答。
また、タックスヘイブンへの投資についても「僕が決めたりということはないんです。サインをしなくちゃいけないとか、そういうとき以外はないです」などと語っていた。
時折、照れるような笑みを浮かべながら、本誌の直撃にも、真摯に対応してくれた鳥山さん。偉人の訃報に、世界中が悲しみに包まれている。