2024年3月13日 5時00分

公衆電話の使い方

 壊れたレコードのように、と書きかけて「若い世代には通じないか」とやめたことがある。レコードの傷でプレーヤーの針が飛び、前の場所に戻って曲を繰り返す。「同じことを何度も言う」という例えだ▼ダイヤルを回す、もいまは死語だろう。電話の円盤の穴に指を入れて、ジーコ、ジーコとまわして架電したものだ。公衆電話は10円玉が切れそうになるとブーと音をたてて、こちらを焦らせる。早口になって、でも全てを言い終わらぬうちに「あ、切れちゃった」。なんだか、とても遠い記憶に思える▼雑誌『幼稚園』の最新号では、本物そっくりの厚紙の公衆電話がふろくになった。台紙から部品をはずし、山折り谷折り、と童心に帰ること1時間ほど。出来たのは、受話器を下ろすとテレホンカードが戻ってくるという手の込んだものだった▼驚くのはそればかりではない。雑誌本体にクイズがあった。「公衆電話をかける時に最初にすることは? 電話番号を押す/受話器をとる/お金を入れる」。これが問いになるとは。昭和は遠くなりにけり、か▼しかし無理もなかろう。NTT東日本によれば、公衆電話を使ったことのない小学生は約8割にもなるそうだ。固定電話も、家庭や職場から消えてゆく。時代とともに情報伝達のあり方は変わるのだ▼そういえば以前、こんな歌を目にした。〈文字に埋まるこの紙「しんぶん」と教えやる幼の家に無き新聞紙〉吉原恭子。いやはや。ノスタルジーに浸っている場合ではない。