2024年3月23日 5時00分
春よ、来い
春という言葉には、何とも軽やかで、明るい響きがある。たとえば、これが「はる」ではなく、「ばる」だったら、どうだろう。ほんの少しの音の違いだけれど、私たちがこの季節に感じるイメージは、ずいぶんと異なるものになったかもしれない▼日本語で、濁点を含む言葉は重たい印象を与える。単語が長くなり、音が増えれば、強そうな感じになる――。そんな言語研究について聞いたことがある。「はる」の響きが軽快さを感じさせ、重さや強さとは逆をいくのは、そうした理由もあるに違いない▼韓国語で、春は「ポム」と呼ばれる。これもまた、どこか朗らかで、柔らかい言葉だ。さらに言えば、英語の「スプリング」は、弾むような感じか。跳躍やバネの意味もあるからだろう。何か新しいことが始まりそうな気がしてくる▼もちろん、実際には、春という季節はうららかな日ばかりではない。冷たい雨や強い風、むしろ厳しく、荒れた天気が多い。「3月はライオンのごとく来たりて、子羊のごとく去る」とは有名な英国の格言である▼きょうはもう、彼岸明け。暖冬で、今年の春の訪れは早いとの予想だったが、ここに来て、いつまでもオーバーが手放せない。まるで「出番が早すぎるよ」と言われた春が機嫌を損ね、意地悪をしているかのようである▼〈月日過ぎただ何となく彼岸過ぎ〉富安風生。なかなか膨らんでこない桜のつぼみを見上げながら、小さく声を出してつぶやいてみる。駘蕩(たいとう)たる春よ、早く、来い。