2024年3月25日 5時00分
尊富士の快挙
地元の宝を誇る口ぶりが聞こえてくるようだ。青森の詩人、高木恭造(たかぎ きょうぞう)は「ねぷた」でこう書いた。「吾(ワ)のねぷたコ 見でけへじや/どンですバ 吾の面(ツラ)コど似でべせエ/眼(マナグ)も口(クヂ)も大(デッ)たでホラ」。肩を隆々といからせて、ぐっとにらみつける祭りの荒武者像▼青森・五所川原(ごしょがわら)出身の尊富士(たけるふじ)は千秋楽で、まさにそんな形相だった。優勝まであと一歩に迫りながら、前日の足首のけがで出場さえ危ぶまれた。だが、豪ノ山(ごうのやま)を相手に一歩も引かず、前へ前へ。気迫(きはく)の塊のような相撲を見せてくれた▼おととし初土俵(どひょう)を踏んだばかりの24歳。新入幕での優勝は、じつに110年ぶりだという。歴史に名を刻む瞬間を郷里(きょうり)の皆さんと一緒に迎えようと、五所川原市役所(ごしょがわらしやくしょ)の会場でテレビを見た▼その瞬間。160人ほどが一斉に立ち上がり、抱き合い、手を鳴らし、言葉にならぬ声を上げる。最前列にいた祖父の工藤弘美(くどう ひろみ)さんは、男泣きに泣いた。「記録も大事ですが、みなさんの記憶に残りたくて必死に頑張りました」という尊富士のインタビューに、また大きな拍手がわいた。「よぐ、けっぱった!」▼最後まで優勝を争った大の里(おおのさと )の奮闘も素晴らしかった。まだザンバラ髪の23歳。〈大銀杏(おおいちょう)結えぬ(ゆわえる)二人が(はるあらし)〉小森伸一。新しい時代の到来だろうか▼夕暮れ。春のかすみの向こうに、真っ白な雪をかぶった岩木山(いわきさん)が見えた。地元の人々はこの山に親しみ、その端正な姿を誇ってきたと聞く。別名・津軽富士(つがるふじ)。ご自慢の「富士」がもう一つ誕生した。
- 尊富士 弥輝也(たけるふじ みきや、1999年4月9日 - )は、
- 青森県北津軽郡(きたつがるぐん)金木町(かなぎまち)(現・五所川原市(ごしょがわらし)出身で、伊勢ヶ濱部屋(いせがはまべや)は所属の現役大相撲力士。本名は石岡 弥輝也(いしおか みきや)。身長184.0cm、体重143.0kg。最高位は東前頭17枚目(2024年3月場所)。
新入幕場所での初日からの連勝数11で元横綱大鵬と並び歴代1位タイ。初土俵からの史上最速優勝者(10場所、2024年春場所・大阪府立体育館、13勝2敗)。