2024年3月14日 5時00分
ゴジラに米アカデミー賞
銀座を初代のゴジラが襲う。松坂屋(まつざかや)を炎上させ、時計塔を薙ぎ倒す(なぎたおす)。これらのシーンのために円谷英二(つぶらや えいじ)率いる特撮班(とくさつはん)は、実物(じつぶつ)の25分の1のミニチュアを建物だけで500棟(とう)も作った。壊れやすいように割れ目をいれ、色をつける▼細かな(こまかな)作業に1カ月も費やした(ついやした)ところで、「リアルじゃない」と注文がつき、一から作り直したそうだ。ダメ出しする側(かわ)も、応じる側も、特撮への沸る(たぎる)思いがなければ到底やれることではない▼そんな情熱が映画人の間で受け継がれてきたのだろう。第1作の封切り(ふうぎり)から70年。山崎貴(やまざき たかし) 監督の「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」が米アカデミー賞の視覚効果賞に選ばれた。メイキングの映像を見ると驚く▼銀座は、今回もゴジラに襲われる。立ち並ぶビル群はともかく、逃げ惑う多くの人さえ、じつに精巧な(せいこうな)CG(Computer Graphics)だ。スタジオの動かぬセットでは、役者が大波に揺られる演技をしていた。画面の中で作られた水しぶきなどと合成されると、それはゴジラに迫っていく船の上としか思えない映像に生まれかわる▼同じ場面でも、ハリウッドなら全く違う方法で撮るだろう。豊富な資金にものを言わせ、大がかりなセットごと機械仕掛けで揺らしてしまう、と監督が語っていた▼予算も人手も少なく、情熱という刀一本で敵陣にのぞむサムライのような心境だったか。授賞式(じゅしょうしき)で監督は「We did it」と言い添えた(いいそえた)。そうだ、やった。心から祝福したい。You did it。あなた方はやり遂げた。