2024年3月22日 5時00分
ゴジラと靖国神社
ゴジラはなぜ、東京にやってくるのだろうか。繰り返し、何度も何度も、日本の首都を襲うのだろうか。1954年に初代のゴジラが破壊して以来、国会議事堂(こっかいぎじどう)は幾度(いくど)となく、がれきと化した。あの異形の怪物(かいぶつ)が暗喩(あんゆ)するものはいったい、何なのか▼ゴジラとは「亡霊(ぼうれい)」なのだ、あの戦争で死んだ日本兵の「凝集体(ぎょうしゅうたい)」なのだ、と書いたのは評論家の加藤典洋(かとう のりひろ)さんだった。南洋の海から怪物が現れるのは、私たちが死者に向き合っていないからではないか。著書『さようなら、ゴジラたち』に記している▼兵士たちは「尊い(とおとい)祖国(そこく)の防衛のための犠牲者」だった。同時に「侵略戦争の先兵(せんぺい)」でもあった。戦後の日本社会は、彼らのこの二つの異なる側面を「消化」できていない。戦後を考え続けた加藤さんはそう訴えた▼戦没者を奉る(まつる)靖国神社(やすくにじんじゃ)をめぐって、気になる動きが生じている。自衛官らの集団参拝(しゅうだんさんぱい)が相次いで明らかになった。新たな宮司(ぐうじ)には、海上自衛隊の元海将(もとかいしょう)が就くという。元将官の就任は初めてだそうだ▼昔の傷口(きずくち)がうずくような、ひどく落ち着かぬ気持ちになる話である。何がいま、自衛隊と靖国神社の結びつきを強めさせているのか。戦前の体制への回帰を強く懸念しつつ、しかと、その背景に目をこらしたい▼初代ゴジラは国会議事堂を壊した後、ぐるりと向きを変える。なぜか皇居(こうきょ)を迂回(うかい)し、下町(しもまち)へと向かう。加藤さんは書いている。もしも新たに映画をつくるならば、ゴジラが靖国神社に行くというのはどうか、と。
大塚 海夫(おおつか うみお、1960年(昭和35年)8月6日 - )は、日本の海上自衛官、神職。2024年(令和6年)4月1日付で第14代靖国神社宮司に就任予定。
せんぺい 1【尖兵・先兵】 ① 軍隊の移動の際,敵軍に近い所で警戒・探索などにあたる兵隊。 ② 他に先がけて,また,先頭に立って物事をする人。「貿易立国の―となる」