2024年9月7日 5時00分
白露だけど、暑い
きょうは白露である。二十四節気のひとつだ。朝の草木に露が降り、白く輝く。こよみのうえでは夏が過ぎ、秋の気配が深まる季節ということらしいが、そう聞いても、やや実感の薄い話ではないか。最近の暑さを思えば、露凝(つゆこ)っても、すぐに蒸発しそうである▼すこし早起きをして、近所の草むらで秋を探した。白き露は見つからなかったが、セミに代わり、小さく聞こえる虫の音が心地よい。見上げる空の青さも、澄み切った色ぐあいが夏の盛りとは違う▼一輪残ったインド浜木綿(はまゆう)の薄紅色の花が、ちょっと寂しそうに、風でゆらゆら、季節の終わりを名残惜しんで揺れている。小さなバッタが跳びはねる緑草のなか、ふくらはぎの痒(かゆ)みに気づく。どうやら蚊にくわれたようだ▼目の前に無いものを探すように、唐代の詩人、白楽天の五言絶句を頭に浮かべる。〈清風 枕席(ちんせき)を吹き/白露 衣裳を湿(うるお)す〉。碩学(せきがく)、井波律子氏の訳に頼れば、すがすがしい風が枕やしとねに吹きわたり、白露が上着と裳裾(もすそ)をしっとり濡(ぬ)らす――▼中国の古人たちは夏よりも、好んで秋を多く詠んだ。暑い、暑いと嘆く感情はどこか、情緒に欠けると思ったからか。今年の6月から8月まで、日本の平均気温は平年と比べ、1・76度も高かった。まだまだ今月も猛暑の日がありそうという。もうすこし、辛抱か▼〈何事も過ぎてゆくもの白露の日〉稲畑汀子(ていこ)。ぷくりと赤くなった蚊の咬(か)みあとを肌に残しつつ、乱暴者の夏はゆっくり、ゆっくり去ってゆく。