2024年9月5日 5時00分
私の好きな先生
中学校で数学を教えてくれたのは西先生だった。大きな男の先生で、いつもニコニコしていた。最初の授業のとき、黒板に大きく2と4を書き、「美しい数字だなあ」と言った。それでもう、クラスのみんなはすぐに先生の名前を覚えてしまった▼1970年代末の田舎の公立中の話だ。何とものんびりしていた。「きょうは9月5日。9に5を3回たせば24」とか言って、授業は始まる。例題(れいだい)の答えも、先生が好きな24や240が多く、正解かどうかよりも解答する過程が大事にされた▼もちろん意地悪な先生もいたし、体罰も、いじめもあった。でも、時間はゆったり流れていて、先生たちもあくせくしていなかった。日が暮れれば、学校には誰もいなくなった▼ところが、いまはどうしたことか。先生の働き方は一変したようだ。規定の上限まで残業する教員は小学校で65%、中学校で77%。本紙の投書欄にも「教職の待遇(たいぐう)、職場環境が劣悪(れつあく)」「新任の先生はその過酷さ(かこくさ)から転職していく」といった声が載る▼文科省は教員のなり手(なりて)不足対策で、残業代に代わる上乗せ支給額を3倍超に引き上げたいという。それはいいとして、定額で働かせ放題と言われる状況は変わらぬままだ。仕事を減らす、もっと抜本的な策はないものか▼西先生とはもうずっと会っていないが、きっと先生も笑顔で、優しく言うだろう。「四六時中(しろくじちゅう)、働いてばかりでは体によくないぞ」。4かける6は24である。「誰でも1日は24時間。大切にしなきゃな」