2024年9月12日 5時00分

「奇妙」では済まされない

「ひねくれヒラリー」に「眠そうなジョー」。過去の米大統領選では、トランプ氏が民主党の政敵を揶揄(やゆ)するあだ名を付けるたびに嫌な気分になった。まず失礼だし、政治リーダーとして品格を欠くのではないかと。呼ばれた方は苦笑や無視で受け流していた▼ところが今回、ハリス氏が新たな大統領候補者となってから、今度は民主党側がトランプ氏を「奇妙」な人と呼ぶようになった。もとはハリス氏と組む副大統領候補が使った言葉のようだが、瞬く(まばたく)間にSNSで広まった▼トランプは奇妙だ、言動が奇妙だ――。ハリス氏の支持者らは盛り上がり、米メディアも盛んに報じた。思わぬしっぺ返しに、トランプ氏はむきになって「私が奇妙だと? 私は奇妙ではない。我々は奇妙ではない。奇妙なのはあっちだ」と集会で反論した▼個人的には、この戦略はいかがなものかと思っていた。これまで大人の対応をしてきたのに、相手の土俵(どひょう)に乗ったようで残念だった。だが、日本時間のきのう、ハリス氏とトランプ氏のテレビ討論会を中継で見ていて、揶揄とは別次元の言葉を聞いた▼現政権の移民政策を批判していたトランプ氏が、移民が増えた国内の街の名前を挙げてこう言い放ったのだ。「彼らは犬を食べている。猫も食べている。住民のペットを食べている」。ネット上で流布(るふ)されたデマである▼ハリス氏はあきれたように笑っていた。挑発には乗らないと用心したのか。人権を踏みにじる暴言は、厳しく正して欲しかった。