2024年2月19日 5時00分

政治を語るスターたち

 ホテルの部屋に入って、テレビをつけた。画面に映ったのは人気俳優のジョージ・クルーニーさんだった。昔、米国に出張したときのことだが、よく覚えている。彼は言った。「僕らが受けた教育から言えば、政府を批判することは米国市民の義務のようなものだ」▼有名人が視聴者の質問に答えるトーク番組だった。映画スターの政治的な活動について、彼は平然として「当たり前だよ」と語っていた。かの国の民主主義の胆力に、触れた気がした▼もちろん、それは決して簡単なものではない。最近、大統領選への言動が耳目(じもく)を集めるテイラー・スウィフトさんも、ずいぶん悩んだそうだ。記録映画などで本人が語っている▼16歳のデビューからずっと、「政治の話をして、誰かを困らせてはダメ」と周囲に言われていたという。「もう我慢できない」。共和党候補への批判を公言したのは6年前だった。ひどい誹謗(ひぼう)中傷も受けたが、「口輪(くちわ、A muzzle)が外れたみたいに楽になった」▼影響力の大きいスターが特定の政治家の支持を明言することは、その危うさも指摘される。彼らは大富豪(だいふごう)であり、富裕層(ふゆうそう)の利益が優先されるとの懸念もある。でも、だからといって沈黙(ちんもく)すべしというものではないはずだ▼翻って日本を見ると、政治を語る有名人のいかに少ないことか。「口先だけの最低な公約に立ち向かうために、自分の影響力を利用するのが私の責任だと気づいた。どんどん行動していくつもり」。スウィフトさんの言葉が何ともまぶしい。