2024年2月22日 5時00分

輪島の段駄羅

 段駄羅(だんだら)ということば遊びをご存じだろうか。〈愛してる 私と居てよ/渡しといてよ 請求書〉森岡梅子。五七五のうちの「七」に二重の意味をもたせた一種の狂句(きょうく)だ。妖艶(ようえん)に言い寄られて、いい気になったところに紙1枚。前後でがらりと意味が変わる面白さがある▼かつて石川県輪島(わじま)地方の漆塗り(うるしぬり)職人の間で「職場文芸」として流行し、技術の伝承とともに受け継がれてきた。300年近くの歴史があるそうだ。木村功(きむら いさお)著『不思議な日本語 段駄羅』に教わった▼先月輪島を訪れたとき、倒壊したあちこちの商店の前に、句を書いた看板があった。観光客の街歩きの楽しみに以前から掲げていたのだろう。その一つ。〈能登地震 予期しなかった/良き品買った 朝市で〉坂本信夫▼市中心部は2007年にも震度6強の揺れに襲われ、そこから立ち直った。まさか、再びの揺れと火災で焼け野原になってしまうとは。だれにも予期できなかったに違いない▼地震発生から8週目。市内では、ようやく3割の水道が復旧にこぎ着けたと、きのうの本紙石川県版にあった。全国から工事の応援に駆けつけている方々には、頭が下がるばかりだ。しかし、いまだ道遠しである▼県は、金沢(かなざわ)との往復にかかる時間を減らして復旧を加速させようと、作業員向けの宿泊所を現地に建てる計画だ。一日も早く、かつてのような街のにぎわいを。初夏の現地を詠んだ段駄羅がある。〈観光は 能登、金沢で/のどかな沢で ホトトギス〉高間紘治(たかまこうじ) 。