2024年5月8日 5時00分

沈黙を拒む

 「今回の抗議者たちは1968年だけでなく、1985年も見ている」。数日前、米メディアに語るジェームズ・クーネンさんの言葉に引きつけられた。19歳だった68年、ベトナム戦争を背景とするコロンビア大学の闘争に参加。映画にもなった手記『いちご白書』の著者である▼彼が分析したのは、米国の大学で広がるイスラエルへの抗議活動だ。ガザで続く惨事に、学生らが声を上げた。警察と揉(も)み合う光景を、60年代の反戦運動と重ねた報道も目立つ。だが、当時より「1985年」の方が状況や要求が似ていたかもしれない▼この年、南アフリカの人種隔離政策への抗議活動が欧米で盛り上がった。学生によるボイコット運動の結果、大手企業が南ア事業から撤退するなど成果を上げた▼今回、叫ばれている「ダイベスト(投資撤退)」も、投資絡みだ。米国の大学は通常、学費以外にも多額の寄付を基金運用して財源にする。イスラエル企業や、ガザ紛争で利益を上げる企業へ投資するのを大学はやめろと学生側は求めている▼要求は通るだろうか。思えばこの40年で金融商品は複雑化した。専門家などに運用を任せきりで、パッケージ化された中身の株や債券まで把握していないという大学もあるだろう。だが、逃げずに特定し、開示すべきだ▼運動が利用されているとの声もある。それでも大学は、学生と真摯(しんし)に向き合って欲しい。国際社会の大人たちが止められないなかで、沈黙も言い訳もせずに立ち上がったのだから。