2024年5月6日 5時00分

カスハラにご用心

 列車の指定席で男が傍若無人(傍若むじん)にふんぞりかえる。作家の伊集院静さんが注意したところ、言われたそうだ。金を払っているんだからどうしようと構わないじゃないか、と▼「高々(たかだか)金を払ったくらいで、好き勝手ができる場所が社会のどこにあるんだ。好き勝手したいなら、この車両ごと切符を買ってやれ」。小気味いい啖呵(たんか)に胸がすく車掌さんもいるだろう。連休の最終日。Uターンの車内で旅の恥は掻(か)き捨て、とふるまう客への対応で、現実には手を焼いているかもしれない▼鉄道だけではない。店員や公務員などに、客(カスタマー)が暴言を吐いたり、理不尽な要求や説教を繰り返したりするハラスメント、略してカスハラが横行しているそうだ▼トラブル対策で、運転手名の車内掲示をやめたタクシー会社もある。会話の入り口に、名字を見て出身地を聞くのは小さな楽しみだったが、何とも世知辛い(せちがらい、 cold)世の中になってしまった▼人間だから、店や窓口での対応にいらつくことはあろう。でも長い目で見れば、サービスされた者は、いつかサービスする側になる。円環(えんかん)となって巡るのが社会というものだ。放ったカスハラの矢はぐるりと回って、自分の背に刺さる▼以前の記事によれば、他人をねちねちと諭すのは中高年の男性に多く、世直し型(よなおしかた)や過去自慢型(かこじまんかた)、上から目線型などに分かれるそうだ……あれ? 小欄は大丈夫だろうか。恥の掻き捨てにも、お説教の書き捨てにもならぬよう用心用心。鏡の中の己をみつめ直す。

ふんぞりかえる 【ふん反り返る】 ▸ 椅子にふんぞり返る⦅偉そうに椅子に座る⦆ sit back in a chair arrogantly / throw oneself back in a chair. ▸ 嫌な感じの男が何人か子分を従えてふんぞり返って私の方に近づいてきた An obnoxious man swaggered up to me accompanied by his henchmen.