2024年5月14日 5時00分

オーロラよ

 第1次南極越冬隊がカラフト犬のタロ・ジロたちを残して、急きょ引き揚げる。1958年2月11日。北村泰一(きたむら たいいち)隊員が去ろうとすると、犬たちは一斉(いっせい)にほえた。「再び基地へ来ることができないような気がして、氷上につながれた犬たちを見た」と著書にある。切ない別れである▼じつはこの裏で、昭和基地と観測船、日本との間では深刻なトラブルが起きていた。通信が途絶(とぜつ)し、隊員の動向が一切つかめない。原因は強力な磁気嵐(じきあらし)だった▼太陽が放った粒子が地球の磁場(じじょう)をかき乱すと、無線が使えなくなる。同時にオーロラを出現させる。同じ夜、日本でも広い範囲にわたって赤や紫に空が染まり、朝日新聞の朝刊1面を飾った。火事と見誤って消防車が出動する騒ぎもあったという▼もう一度、オーロラを観察するチャンスが日本に巡ってくるとは。週末のネット上では、北海道や東北、さらには関西からも「見えた!」という報告が相次いだ。じつにうらやましい。早回し(はやまわし)の映像をみれば、地平線の上をゆらゆらと幻想的な光が舞ったようだ▼かつて南極との通信は、復旧に2日かかった。GPSの発達などで、磁気嵐が生活に与える影響は現代のほうが格段に大きい。だが今のところ重大な障害はなく、何よりだった▼それにしても、太陽とは何と力あふれる存在だろう。いつもより少し強く息を吹きかけるだけで、従える星に荘厳な羽衣(うい、はごろも)をまとわせる。宇宙の神秘(しんぴ)、地球のちっぽけさ。そんなことも思わせる天体ショーだった。

オーロラ 0aurora 〔ローマ神話(しんわ)の暁(あかつき)の女神(めがみ)アウロラから〕 主として両極地方の超高層大気中にみられる発光現象。太陽面からの帯電粒子(たいでんりゅうし)が極地(きょくち)の上空に侵入したときに現れる。カーテン状・放射状・コロナ状などの形をとり,赤・緑・黄・青・ピンクなどの美しい色彩を呈する。極光(きょっこう)。

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