2024年5月16日 5時00分
つばめ、ついばめ
古い言葉で「メ」は鳥の総称だったそうだ。国語学者の金田一春彦(きんだいち はるひこ,1913年4月3日—2004年5月19日)さんが書いている。植え込みで忙しいスズメ。海辺(うみべ)を漂う(ただよう)カモメ。そしていま、ツバメが初夏の訪れを告げている▼数多い渡り鳥(わたりどり)の中でも特に愛されるのは、人家(じんか)に近いところで子を育て、成長までを見せてくれるからだろう。きのう、駅への道をちょっと遠回りして、心当たりの古いビルを目指した。駐車場になっている1階の天井の隅。お、いたいた▼枯れ草をくわえた1羽は、きょろきょろと辺りを見回すと巣へ。番(つがい)のもう1羽が飛び出し、電線で赤いのどをふるわせる。頭上でするどくカーブを描くと、軽やかに飛んでいった▼〈ついと出ちや/くるつとまはつて/すぐもどる/つういと/すこうし行つちや/また戻る(略)おるすの/赤ちやん/気にかかる〉。作者である金子みすゞも、小さな命をいつくしんで、一緒に空を舞っているのだろう。詩「燕(つばめ)の母さん」である▼この燕という文字は、翼を広げて飛ぶ様を写した象形文字(しょうけいもじ)なのだそうだ。でもじっくり見ていると、口を大きく開けたヒナの顔にも見えてくる。目をつぶって、うぶ毛(うぶけ)に包まれ(つつまれて)ているようだ▼見上げた巣は補修中らしく、ヒナたちが顔をのぞかせるには、もう少し時間がかかりそうだった。つがいを邪魔せぬようにそっと離れた。駐車場の持ち主さん、掃除が大変だとは思いますが、南からの居候(いそうろ)をしばらく許してあげてください。夏本番まで。つばめ、ついばめ、ヒナをはぐくめ(はぐくめ)。
ついば・む 3【啄ばむ 鳥がくちばしで物をつついてたべる。「小鳥が木の実を―・む」