224年8月1日 5時00分

体験格差

 小学生の息子が突然正座し、泣きながら言った。「サッカーがしたいです」――。今井悠介(いまい ゆうすけ)さんの著書『体験格差』で、こんな実話(じつわ)が紹介されている。非正規で働く母親と息子の2人家庭で生活は苦しい。遠慮と我慢を重ねた末に、あふれ出したお強請り(おねだり)。親子で泣いたという▼ピアノもそろばんも習えなかった息子にサッカーはやらせてあげたいと、母親は今井さんに語っている。だが、月謝(げっしゃ)を捻出できても時間の余裕(よゆう)がない。仕事が終わる前に練習が始まるのでグラウンドへ連れて行けない▼スポーツや旅行、観劇など、望んだ体験ができる子と、やりたくてもできない子がいる。この「体験格差」は、これまで「親の努力不足」と決めつけられたり、「体験は必需(ひつじゅ)ではない」と軽視されたりしてきた▼関心が高まっているのは、体験格差も子どもの貧困問題だとわかってきたからだ。支援団体の調査によると、年収300万円未満の世帯の子どもは、3人に1人が直近1年に学校外で「体験ゼロ」。600万円以上では、約10人に1人だった▼キャンプに花火、海水浴。夏休みは格差が顕著(けんちょ)に表れる。別の調査では、困窮家庭の多くが子どもに「体験させる余裕がない」のを理由に、夏休みが「なくてよい」「もっと短い方がよい」と答えたという▼格差を埋めようと、無料体験の機会を提供するNPOなども増えている。その情報が、忙しい保護者と子どもたちへ確実に届いてほしい。ワクワク、ドキドキは、一生の宝物になる。