2024年8月5日 5時00分
「きょうも暑うなるぞ」
また朝がきて、新たな一日が始まる。炎天(えんてん)の夏である。「ああ、きょうも、暑うなるぞ」。映画『東京物語』で、笠智衆(りゅう ちしゅう)さんが尾道(おのみち)の港を見下ろしながら訥々(とつとつ)とつぶやく、あの有名なセリフがどこからか聞こえてくるようである▼暑い。この暑さ、色で例えれば(たとえれば)、私は白だろうか。深緑(しんりょく)に茂る木々の葉も、アスファルトの道路も、強烈な日差しを反射し、すべてが白っぽく見える。くっきりとピンク色に咲いた百日紅(さるすべり)の花さえ、白日(しろび)の光に激しく打たれると、ぼんやりと色あせてしまうかのようだ▼先月は、日本の観測史上、最も平均気温が高い7月だったという。妙に納得感のある話である。「地球沸騰」という言葉が流行った(はやった)昨年の暑さを上書き(うわがき)し、2年続きの過去最高だそうだ▼影響は、多々(たた)あるらしい。熱による鉄道レールのゆがみが相次ぎ、熊本県のJR線では、作業員が氷をあてて冷やしているという。キャベツ、トマト、ピーマンといった野菜でも、猛暑(もうしょ)で歪(いびつ)に変形するものがあるとか▼自然は曲線を創り、人間は直線を創る――。湯川秀樹(ゆがわ ひでき)博士の名言が頭をよぎる。私たちも、うまく曲がれる(まがれる)ところは曲がりながら、自然と向き合い、折り合いをつけていくべきなのだろう▼厄介(やっかい)な季節ではあるけれど、夏を好む人は多い。酷暑(こくしょ)のなかにあっても、一抹の涼しさに触れ、趣(おもむき)を覚えることは少なくあるまい。真っ白な画布(がふ)に、色鮮やかな顔料が一筆に走る感か。〈炎天を槍のごとくに涼気(りょうき)すぐ〉飯田蛇笏(いいだ だこつ)。その涼、何処に(いずこに)。