2024年8月12日 5時00分

名画の空と温暖化

 窓から差し込む柔らかな光。淡い光のなかでほほえむ女性。17世紀オランダの画家フェルメールの作品で特に魅力的なのは光の表現だと思う。だが、気象予報士の長谷部愛(はせべ あい)さんは、当時の天気や気象条件に思いをはせる。注目するのは、2点しか現存しない風景画の方だ▼長谷部さんの著書『天気でよみとく名画』によると、フェルメールの「デルフトの眺望」は、気象学的にも見どころが満載だという。作品の空を覆うのは夏を代表する積雲で、多様な色使いによって動きまで感じさせる。「降水確率10パーセントといったところでしょうか」▼19世紀の英国を代表する風景画家のコンスタブルも、興味深い。1828年の「デダムの谷」には発達する雲や雨柱など、変わりやすい天気が描かれている。抑えた色使いは湿度を感じさせ、吹く風の方向まで筆の動きでわかるそうだ▼印象派にも影響を与えたコンスタブルは、気象学を絵画に反映した最初の画家の一人とされる。自然を理想化せず、ありのままに描こうとした。風景画で重要なのは空だと熱弁し、空は「すべてを支配する」とまで言い切った手紙が残る▼フェルメールらが生きたころの欧州は、小氷期で気温が低かった。いまは逆に、地球温暖化の問題が深刻だ。長谷部さんも、海抜が低いオランダの海面上昇の将来予想を案じている▼数百年後の地球では、どんな風景画が描かれているだろう。水没した街、緑が消えた丘、燃える森林――。そんな絵にしてはいけない。