2024年8月3日 5時00分
悲願の初勝利
パリ五輪の3日目、柔道女子(じゅうどうじょし)52キロ級の1回戦。開始から45秒後、モザンビークの選手を相手にきれいな投げ技(なげぎ)が決まった。その瞬間、マリアム・マハラニ選手(24)は拳を握り、泣きそうな顔で喜びを噛み締めた(かみしめた)。インドネシア代表の柔道選手が五輪で勝利したのは、初めてだった▼ラニの愛称で呼ばれるマハラニ選手を支えてきたのは、実は日本人の指導者たちだ。その一人、安斎俊哉(あんざい としや)さん(64)は10年前、ジャカルタの柔道場で「速さと根性」が際立つラニに、ピンときた。鍛えれば、いけるかもしれない▼安斎さんは1988年、国際協力機構(JICA)が初めてインドネシアへ派遣した青年海外協力隊の一員だ。以来、立場が変わっても同国で柔道指導を続けている。これまで7人の代表を五輪へ送り込んだが、一度も勝てなかった▼「五輪で1勝」は、インドネシア柔道連盟にとっても悲願だった。ラニの可能性に賭け、安斎さんらの協力で何度も日本の大学などへ「出稽古(でげいこ)」に送り込んだ。この2年は五輪出場に必要なポイントを得るため、国際大会にも派遣。大陸枠に滑り込んだ▼ラニは2回戦で、準優勝したコソボの選手に一本負けした。「すごく速くて防御できなかった」。次の五輪を目指し、稽古のために翌日の便で帰国した▼パリにいるのは、メダル獲得の大きな期待を背負う「スポーツ大国」の選手ばかりではない。大舞台で控えめな目標に挑む(いどむ)選手らを、国籍が異なる指導者が地道に支えていることもあるのだ。
- マリアム・マハラニ
かみしめる 【噛み締める】 bite*, chew (⇨噛む); 〖味わう〗enjoy, taste ; 〖熟考する〗contemplate. ▸ 唇をかみしめる bite one's lip. ▸ 自由の喜びをかみしめる enjoy one's freedom.