2024年8月17日 5時00分
「愛国的でない本を書くな」
大阪市に住む劉燕子(リウイエンツー)さん(58)は今年の5月、日本で本を出した。題名は『不死の亡命者』。中国の共産党政権に抗い(あらがい)続ける人々について書き綴った(つづった)内容で700ページを超える力作(りきさく)である。1989年の天安門事件から、35年の節目に合わせた出版だった▼「中国には、どんな時代にも、飼いならされない人たちがいます」と劉さんは話す。国内で、国外で、広い意味の「亡命者」として、体制批判を続ける人がいるのを知ってほしい。「反骨精神は不滅だとの意味を、書名に込めました」▼6月になって、故郷の中国湖南省にいる87歳の母親の自宅に、3人の当局者が訪ねてきた。彼らは言った。「愛国的でない本を書くな」。母親が分からないと答えると「惚けるな(とぼけるな)」。応じなければ「どうなるか知らないぞ」と脅した▼劉さんは91年に留学で来日した。日本の国籍を取得し、文学を専門にしてきた研究者だ。ノーベル平和賞の受賞者、劉暁波(リウシアオポー)氏の著作の翻訳なども手がけている。現体制下で郷里に戻れば、当局に連行されるかもしれない▼彼女もまた、自著に記した人々と同じように、不屈の人なのである。脅されても、筆を折る気はないようだ。だが、家族への圧力はつらく、苦しい。「まるで連座制です」。厳しい表情で小さく、つぶやいた▼反骨とは何だろう。それは後頭部の骨の出っ張り(でっぱり)に表れるとの俗説を聞いたことがある。劉さんたちを思いながら、頭をなで、確かめる。ごつっとした、その尖り(とがり)が、自分にもあるかを。
- 劉燕子