2024年8月30日 5時00分
パリ・パラリンピックの開幕
暮れなずむ空はみごとな階調を描き、凱旋門(がいせんもん)は茜色(あかねいろ)に染まった。パラリンピック・パリ大会の開会式。地球の反対側から届く映像の美しさは、眠い目を覚まさせるのに十分だった▼シャンゼリゼ通りをまっすぐ抜けて、選手団がやってくる。ギリシャの先頭には盲導犬(もうどうけん)がいる。車イスに乗った日本の選手たちが小旗(こばた)をふる。地元のフランス勢は肩を組み、「オー・シャンゼリゼ!」と揺れながら歌う。みな爽やかな(さわやかな)笑顔だった▼会場となったのは、かつての革命広場である。1789年8月、フランス革命の熱は高まり、人類史に刻まれる宣言を生んだ。人は、自由かつ諸権利において平等(びょうどう)なものとして生まれ、そして生存する――。いわゆるフランス人権宣言である▼小さな流れは、年月をかけて大河となり、差別の禁止や人権という考えを世界に染み込ませた。だがまだまだ、である。重度障害者で芥川賞作家の市川沙央さんの言葉が、紙面にあった。「この社会は、障害者が同じ人間であることすら理解できない人が多くいる」▼アスリートとして競い(きそい)、泣き、笑う。当たり前のふるまいに過剰な意味づけをすることには、ためらいもある。ただ、選手の姿が一人でも多くの目にとまり、こびりついている偏見を減らすことにつながれば、とも願う▼開会式で流れたインタビュー映像が心に残っている。両手足(りょうてあし)を失った女性が目を輝かせて(かがやかせて)言う。「私にとっては最も強く、最も美しい体です」。大会は全12日間。存分に楽しみたい。
- パリ2024-空前のパラリンピック開会式