2024年6月8日 5時00分

時代考証(こうしょう)の功績(こうせき)

虎に翼(つばさ)、ブギウギ、鎌倉殿の13人……。NHK連続テレビ小説や大河(たいが)ドラマの陰には、たいていこの人の存在がある。NHKシニアディレクターの大森洋平(おおもり ようへい)さん(65)。巨大な組織でただ一人、25年にわたって時代考証を専門に担ってきた▼完成前の台本に目を通し、おかしな部分を洗い出す。たとえば江戸時代。長屋(ながや)の住人(じゅうにん)が、ご隠居の粋なふるまいにパチパチと拍手を送る――なんて場面には、待ったをかけなくてはいけない。日本人が称賛の意味で拍手をするようになったのは明治になってからだそうだ▼逆に、殿さまが「片頭痛(かたずつう)がひどい」と嘆いても大丈夫だ。いかにも現代風の病だが、1603年に刊行された日葡(にっぽ)辞書にも「ヘンヅツゥ」の項目がある▼考証には時代ごとの専門家も加わるが、大森さんの仕事は、こぼれ落ちた森羅万象(しんらばんしょう)の謎に答えを示すこと。何でも見ておこうと、旅先では遠回りでも古い街道(かいどう)を歩く。古本屋めぐりが過ぎて「店先だけで品揃え(しなぞろえ)が分かるようになった」▼集めた蘊蓄(うんちく)は、著書『考証要集(こうしょうようしゅう)』として出版され、いまでは制作現場の必需品(ひつじゅひん)になっているという。退職を目前に、放送文化基金賞の受賞が決まった▼創作が「主人」で、時代考証は「しもべ」というのが持論だ。出しゃばってはいけない。しかし、時代考証という土台があるゆえに物語はリアルになる。そもそもの土台や型(かた)を知らなければ、型破りなことなど出来はしない――。ものを創る全ての人へ。大森さんからのメッセージだ。

「出しゃばる」は、自分の立場や役割を越えて、他人の領域に不適切に干渉することを指します。この表現を使うことで、適切な距離を保ち、他人の自主性や役割を尊重することの重要性が強調されます。また、「出しゃばってはいけない」という表現は、自制心を持ち、他人との関係を円滑に保つためのアドバイスとしても機能します。