2024年6月12日 5時00分
隠蔽(いんぺい)はない、以上?
着任の記者会見では、目標を語った。「県民に信頼される、県民のための警察をめざす」。2年後の離任会見は、自画自賛(じがじさん)だった。大きな事件は解決し、交通死亡事故も減少したのだから、「百点満点をつけてよいかと思う」▼1997年まで神奈川県警トップの本部長を務めた渡辺泉郎(わたなべ もとお)氏の話である。その言葉に反し、彼は離任後に不正を問われた。県警が組織ぐるみで、警察官の覚醒剤(かくせいざい)使用をもみ消した事件だった▼公判では、自らの指示を認めている。「間違った職場愛から、くさいものにふたをする習性が身についてしまった」。執行猶予(ゆうよ)つきの有罪判決のなかで、裁判官は断じた。「法治国(ほうちこく)の基盤を危うくするもので、万死(ばんし)に値する」▼古い事件を思い出したのは、鹿児島(かごしま)県警の前幹部による異例の告発が明らかになったからだ。警察官に嫌疑がかかった事件を「野川明輝(のがわ あきてる) 本部長が隠蔽(いんぺい)しようとした」という。真偽は不明だ。とうの野川氏は隠蔽を否定しているが、説明に言(げん)を尽くしているとは思えない▼県警は、情報を漏らした疑いで前幹部を逮捕した。告発された側が、告発した側を逮捕している構図である。当事者だけによる捜査で、真実は解明できるのか。不正はない、以上、といった釈明では誰も納得できまい▼神奈川県警の事件の後、富山県警でも、元本部長が事件のもみ消しで有罪の判決を受けた。「くさいものにふた」の隠蔽は本当になかったか。問われているのは、警察という組織そのものへの信頼である。