2024年6月16日 5時00分
相次ぐクマ被害
秋田県へ行き、クマが出没(しゅつぼつ)した現場をいくつか回った。驚いたのは、その多くが想像以上に「街」の中であることだ。もはや「里」ではない。北秋田市もその一つ。駅前からアーケード街を抜けて、バス通りへ。そこで菓子店(かしてん)を営む(いとなむ)湊屋啓二(みなとや けいじ)さん(67)が、車庫(しゃこ)でクマと鉢合わせ(はちあわせて)になったのは昨秋だった▼当日の朝、悲鳴がすぐ近くから聞こえてきた。慌てて飛び出すと、女性がクマに襲われたのだという。「えっ、クマ?」。まったくピンと来なかった、とふり返る▼獣はいつの間にか車庫の中に潜んでいたらしい。シャッターを開けると、体長1・5メートルほどの塊がいた。あっという間に横倒(よこだおし)しに。「これで死ぬんだな」。顔や背中に爪(つめ)の痕(あと)がいまも残る▼湊屋さんを含めて、秋田県内では昨年度70人にのぼる被害者が出た。山にえさの少ないことが原因とも言われたが、春になって好物(こうぶつ)の山菜(さんさい)や新芽(しんめ)が出た後も、目撃情報はなくならない。県内全域で400件を超え、出没警報(しゅつぼつけいほう)が発令されている▼「朝、散歩する道を変えました」「帰宅して車から降りた時、暗がりから飛び出してこないか」。不安を地元の方から聞いた。一人で外を歩けば、心のどこかでクマが気になっている、と言ったら言い過ぎだろうか▼高校のそば、新興住宅地……。私も現場の周辺で、道端(みちばた)の茂みが揺れるたびに足が止まった。まさかとは思いながらも、やや気味(ぎみ)が悪い。人間と野生動物。不幸な出合いがこれ以上広がらないように、いい知恵はないものか。