2024年6月18日 5時00分

声明から消えた「中絶」

 選挙で大敗した直後に国際舞台に立つ心境とは、いかなるものか。欧州議会選を終えてG7サミットに参加した仏独(ふつどく)両首脳の表情を眺めつつ、想像(そうぞう)した。G7では英首相も来月の総選挙で劣勢が予想され、米大統領の再選にも影が差す。低支持率なら日本も負けていない▼最高の気分で首脳たちを迎えたのは、議長国イタリアのメローニ首相だろう。欧州議会選で自ら率いる右翼政党が大勝し、右派躍進の象徴となった。次々と首相が代わり「回転ドア(かいてんどあ)」と呼ばれたイタリアで、政権基盤を固める▼就任した2年前、党がネオファシストの流れをくむことや、発言から「極右(きょくう)」とも称された。予想に反し、外交では親EU派と歩調を合わせる現実的な戦略に。一方で国政では、人工妊娠中絶や性的少数者の権利などで強硬路線(きょうこうろせん)をとる▼その素顔(すがお)が見えたと感じたのは共同声明だ。メローニ氏は否定したが、声明案から「安全で合法(ごうほう)な中絶」の文言を消したと報じられた。「初参加したローマ教皇(きょうこう)への配慮を理由に押し切った」との見方も▼イタリアでは46年前に中絶が合法化(ごうほうか)された。だがメローニ政権は先日、妊娠の相談窓口に反中絶団体を関与させる法案を可決させた。「中絶を諦める(あきらめる)よう説得し、自由な選択を奪うもの」と反発する声も▼中絶をめぐる議論は、宗教や人権などが絡んで対立が激化しやすい。世界の約半分が投票権を握る「選挙イヤー(year)」に、女性の尊厳や健康を置き去りにした駆け引きで利用されないことを切に願う。