2024年6月20日 5時00分

ブラックボックスの中は

 政治とは、社会に対する価値の権威的配分(はいぶん)である――。1950年代から米国で活躍した政治学者のデイビッド・イーストンは、政治をこう定義した。政治学では初めて、理論的なシステムの概念を導入したことでも知られる▼昔の難解な研究を持ち出したのは、彼が示した政治モデルが、裏金問題(うらきんもんだい)でも最近よく耳にする「ブラックボックス」と呼ばれているからだ。中が見えない箱が「政治システム」で、そこへ「支持」と「要求」が入力される。箱の中で変換された後、「決定と実施行為」として出力(しゅつりょく)される▼自分なりにこれを咀嚼(そしゃく)すると、人々が納税(のうぜい)や法律順守(じゅんしゅ)などで政府を支えつつ、社会や暮らしの改善を求めるのが「入力」。それに政策決定や立法(りっぽう)で応える(こたえる)のが「出力」ではないか。中が見えない分、箱=(イコール)政府への信頼が大切だ▼こちらのブラックボックスは、人々の怒りや補選などでの敗北(はいぼく)が入力されても出力なしだった。きのう成立した改正政治資金規正法で、政策活動費は廃止にも全面公開にもならなかった。透明化と言いながら議論も見通しもブラックボックス状態という情けなさである▼使途(しと)は10年後にしか公開されず、領収書は黒塗りになる可能性がある。結局、見えたのは巨額の資金に執着(しゅうちゃく)する自民党幹部らの内向き(うちむき)な姿だった。穴がぼこぼこ開いているのに中は見えない▼キックバックで始まった裏金問題は、ブラックボックスで幕を閉じた――はずはない。むしろ、これからの私たちの入力にかかっている。