2024年6月21日 5時00分

都知事選と地方分権

 20年ほど前、フィリピンの島で「日本の『一村一品(いっそんいっぴん)運動』を参考に、村でコーヒーを栽培している」と言われて驚いたことがある。インドネシアのカカオ農園でも同じ話を聞いた。市町村がそれぞれの特産品(とくさんひん)をつくるこの運動は、1979年に大分県知事の平松守彦(ひらまつ  もりひこ)が始めた▼海外まで広がることはまれだが、知事という立場はアイデアを実現しやすいらしい。95年まで神奈川県知事を5期も務めた長洲一二(ながす かずじ)は「大統領制だから」と、直接選挙で選ばれる強みを語っている。「国の干渉は『小さな親切、大きなお世話』です」とも▼中央集権型から分権型への転換を、そして住民参加型の社会に。そう訴えた長洲が存命だったら珍しく声を荒らげたかもしれない。19日に成立した改正地方自治法は、「非常時」を国が判断し、指示権を行使する法律だ▼地方分権の理念では、国と地方は上下・主従でなく対等・協力の関係だ。だが、指示権は法的拘束力を伴って地方を従わせる強い権限だ。乱用される恐れはないか▼同法成立から明けた昨日、東京都知事選が告示された。最大の地方選挙の行方は、国と地方の関係にも大きく影響する。かつて70年代には財政危機の中で都知事が国と対立。法人2税の税率を上乗せし、全国百数十の自治体が続いた▼4年前の都選管の調査では、自分の生活に「関係がある」と答えたのは都政が国政より多かった。中央のタテ型政治から自由で、創造的な発想で切り込める。そんな理想の知事像が浮かぶ。