2024年6月25日 5時00分
都知事選のポスター騒動
制度の穴をついて選挙を弄ぶ(もてあそぶ)。1953年の参院選での話だ。ある候補は、政策そっちのけで稼業の菓子屋を売り込んだ。選挙公報ではまんじゅうを宣伝し、「党は党でも甘党です」と政見放送でやったそうだ▼「こんなタグイ(類)の候補者(こうほしゃ)を許しておけば(略)不心得者が続出する」。若き(わかき)記者だった読売新聞の渡辺恒雄(わたなべ つねお)氏が、当時の雑誌で憤って(いきどおって)いる。お怒りはごもっとも。でもどこか牧歌的(ぼっかてき)に感じてしまうのは、東京都知事選のポスター掲示場を見て回ったからだろう▼まったくひどいものだ。立候補した56人のうち半数近くを同じ図柄(ずがら)が占める。しかもそれが犬の写真だったり、都政と関係のない動画サイトへ導く女性の顔だったり。風俗店の広告にあたるとして、警告を受けたケースもあったようだ▼どれも「NHKから国民を守る党」が得た枠だ。24人を立てて掲示板のスペースを確保し、ビジネスのようにそこを事実上販売した。公職選挙法で禁じられてはいないというが、そんな常識やぶりは先人たちにとって論外だっただけだろう。1人を決める選挙に複数の候補者を立てることが、そもそも道理を外れている▼選挙運動はなるべく自由であった方がいい。しかし、制度そのものを嘲(あざ)笑うかのような行為を野放しにしては、選挙への信頼が揺らいで(ゆらいで)しまう。何か手当てが必要だろう▼政見放送で商品を宣伝することが禁じられたのは、菓子屋の件があった16年後。そんなに悠長ではいられない。不心得者が続出する。
ふとくしん 2【不得心】 (名•形動ナリ)〔「ふとくじん」とも〕 ① 得心できない・こと(さま)。「―なりと思ひて猶もなしと答へければ」〈源平盛衰記•14〉 ② 道理をわきまえないこと。無作法なこと。また,そのさま。「思ふ心の―さよと憎まぬ人はなかりけり」〈御伽草子・鉢かづき〉
ぼっかてき ぼく― 0【牧歌的】(形動) 牧歌が聞こえてくるように素朴で抒情的なさま。「―な風景」「―な暮らし」