2024年6月30日
フェミサイドという視点
元交際相手の女性を路上で刺殺。ストーカー行為の末に女性を殺害。元妻の居場所を突き止めて刺した――。新聞の報道を追うだけでも、女性を標的とした殺人や殺人未遂の事件は後を絶たない。世界的に女性の犠牲者は増える傾向だと知り、さらに心が沈んだ▼海外メディアが報じる際に、よく使うのが「フェミサイド」という言葉だ。直訳すれば「女性殺し」だが、女性の殺害のすべてを指すものではない。「女性への最も極端で残忍な暴力」とする国連は2年前、正確なデータを得るために共通の定義を報告書で示した▼まず、殺害が意図的である。男性が偉い、女性だから殺すといったジェンダーに根付く動機があることなどだ。こうして昨秋に発表された「世界で意図的に殺された女性と少女」は、過去20年で最多の約8万9千人にのぼった▼フェミサイドでは、加害者の大半がパートナーなど親密な関係者なのが特徴だ。DVの果ての惨事も多い。コロナ禍の外出禁止で、DVは世界中で増えた。外へ逃げて救済の手に届いていればと思うと、やりきれない▼この犯罪と切り離せないのは、女性差別につながる考え方だ。無意識を含む偏見があり、性別による役割分担を強いてしまう。男性の支配欲求と結びついた究極に、フェミサイドがある▼今年も日本は、男女格差を示す指数で118位とG7最低だった。偏見の芽(め)が、社会のあちこちに蔓延って(はびこって)いないだろうか。それが痛ましい事件の土壌になっていないだろうか。