2024年11月21日 5時00分
法廷での服装は
「伝統と格式」を誇るテニスのウィンブルドン選手権は、服装の決まりが厳しい。選手の服は必ず白でなければならない。クリーム色やオフホワイトではダメだし、服ばかりかバンダナも帽子も、そして靴下も白でなければならない▼そんなことを思い出させる裁判が、東京地裁に起こされた。虹色のラインがある白い靴下をはいていた大学教授が、同性婚訴訟の傍聴を拒まれた。性的少数者を象徴する色であることに、裁判長がピリピリしたのか。粘着テープで柄を隠せ、と言われたそうだ。教授らは国に賠償を求めている▼では、とここで首をひねる。赤から紫まで色の違う7種のTシャツを着た人たちが、傍聴席の前列にそろってしまったら、どうする? 裁判官が入廷した時、傍聴者が全員、自分と同じ黒い法服をまとっていたら? じつにバカバカしいと思いつつ、妄想はあれこれ広がる。線引きはそう簡単ではあるまい▼「法廷の秩序」を守るために、裁判長にはさまざまな権限が認められている。では、どんな服装や行為をダメとするのか、どこに線を引くのか。そのつど判断するしかないグレーゾーンはあるだろう▼だからこそ、個人の自由を制限するなら、丁寧な説明が欠かせない。でも「理由はまったく説明されなかった」と、先の原告は訴えている▼白もあれば黒もある。グレーもあれば、クリーム色もオフホワイトもある。複雑に混ざりあった世の中に、言葉と論理で向き合う。それが司法の役割のはずである。