2024年11月29日 5時00分

七曲署の取り調べ

 金曜日といえば、「太陽にほえろ!」という時代があった。言わずもがなだが、あの刑事ドラマである。1972年から86年まで718回続き、最盛期には視聴率40%を記録した。当時の子どもたちにとって、七曲署のデカたちはヒーローだった▼マカロニ刑事ショーケンは、憂いを帯びた顔で「ボスも出世できそうにないっすね」なんて、つぶやいていた。ジーパン刑事は口をとがらせ、いつも走っている。心やさしきゴリさんは、拳銃に弾をこめない▼いま思うと、彼らはかっこいいが、荒っぽく、ときに違法ギリギリも辞さない。怒鳴ったり、暴れたり、令状なしで連行したり。犯人逮捕のためなら、それらを許す雰囲気が、昭和の世には色濃かったのだろう▼人権感覚は、時代とともに変化する。これはどうだろうか。岸田首相の演説会場に爆発物が投げられた事件で、和歌山地検の検事が、黙秘する被告に侮蔑的な発言を繰り返していた▼「引きこもってると、感謝されることもほとんどない」「勉強とか得意じゃなかったと思いますけど(略)わかったつもりになってるのは、すごくかわいい」。録画された取り調べの言葉を見て、何とも言えぬ気持ちになる。いじめに通じる何かを感じるからか。これでは、ろくな供述も得られまい▼話を戻せば、七曲署の取調室の名場面は、山さんの頭脳であり、長さんの熱情であり、ボスの人間味だった。現実とドラマは違うが、捜査の王道はいつの世も、そんなものであってほしい。